4大公民投票案全て不成立

昨12月18日、台湾では4つの議題に対する公民投票が行われました。

その内容は以下の通り。

・すでに建設が凍結されている第四原子力発電所の建設を再開するべき
・ラクトパミンを使用した豚肉のアメリカからの輸入を禁止すべき
・公民投票案が成立した時、その1ヶ月~6ヶ月後に国政選挙など全国性の選挙があったときは同日投票にすべき
・桃園市沿岸部に建設が予定されている液化天然ガス受け入れ基地の建設地を移転すべき

この4件に対し、政府民進党は「4つの不同意」を掲げ、中国国民党は4つに同意を掲げており、事実上民進党と国民党の信を問う決選投票の様相を呈していました。

一つ一つ見ていきます。




すでに建設が凍結されている第四原子力発電所の建設を再開するべき

第四原子力発電所は新北市に李登輝政権時の1999年より建設が進められていました。2011年に、東日本大震災に伴う福島第一原発事故が発生したことで、日本同様地震大国である台湾では原発に対して否定的な意見が増え、馬英九政権時の2014年に建設が中止されました。

2016年に蔡英文総統が就任した以降は脱原発が推進され、前政権から引き続き、第四原子力発電所の建設は凍結されたままになっています。

この投票案を発議した黄士修氏はインペリアル・カレッジ・ロンドンで物理学を学んだ学者で、台湾社会は過剰に原発を忌避しているとして原発に対する非科学的な謡言を否定する活動をしてきました。

政治的には国民党と非常に近い立場にありつつも、国民党が主張する福島県産食品の輸入禁止に対しては反対するなど、理性的に是々非々を判断できる人物だと思えます。

民進党は、

・2011年以降原発の国際的な耐震基準が厳しくなっており、1990年代に設計された第四原子力発電所はその基準を満たしていない
・台湾は日本同様地震が頻発する断層帯の上にあり、かつ建設予定地は新北市や台北市の人口密集地と近く、事故が起きた場合に緩衝地帯がない
・台湾国内に核燃料廃棄施設を確保できない

などの理由から反対しています。

ラクトパミンを使用した豚肉のアメリカからの輸入を禁止すべき

トランプ政権以降、バイデン政権になってからもアメリカとの関係が深まる中、蔡英文総統は今年1月にラクトパミンを使用したアメリカ産豚肉の輸入を解禁しました。

ラクトパミンとは家畜の育成に用いる肥育ホルモン剤で、簡単に言えば筋肉増強剤。赤身を増やす効果があります。

この案を発議したのは国民党の立法委員林為洲氏。人体に健康被害を及ぼす懸念があるというのが理由です。

民進党は、

・アメリカからの豚肉輸入を禁止すると貿易摩擦を起こし、台米間の関係を後退させる
・台湾は馬英九政権の2012年からラクトパミンを使用した牛肉を輸入しているが、これまでの間台湾国民にラクトパミンが原因による健康被害は起こっていない
・2018年に食品薬物管理署が行った調査でもラクトパミンの危険性は確認されていない
・政府は国際基準に合わせた厳格なラクトパミン残留基準を定めて輸入豚肉の検査を行っている
・政府は基金を設立して国内養豚業者の近代化を助成し、国内養豚業を保護している

などの理由から反対しています。

ちなみに日本にもラクトパミンを使った牛肉、豚肉は輸入されており、こちらも残留基準が設けられています。日本は台湾より長くアメリカから食肉を輸入していますが、ラクトパミンによる健康被害の報告はないようです。

公民投票案が成立した時、その1ヶ月~6ヶ月後に国政選挙など全国性の選挙があったときは同日投票にすべき

これは、公民投票が発議され、投票が行われることが決まった場合に、もしその決定から1ヶ月から6ヶ月の間に国政選挙や総統選挙など全国性の選挙があるときは、同じ日に投票すればいいのではないかという案。

発議したのは国民党の前主席江啓臣氏です。

民進党は、

・2018年に選挙と10大公民投票の同日投票が行われたとき、選挙民は選挙と公民投票双方の主張を理解していかねばならず負担がかかった
・投票所に長い列ができて2時間以上並び続けなければならない場合があった
・投票時間が長くなることで、投票をしている横で開票作業を始める投票所もあり、選挙の透明性に疑問がもたれた
・公民投票まで一定の期間を設けることで十分な議論ができる

などの理由で反対しています。

桃園市沿岸部に建設が予定されている液化天然ガス受け入れ基地の建設地を移転すべき

これは第四原子力発電所建設凍結と関連しています。

第四原子力発電所の建設を凍結し、脱原発を推進する中で、政府は国内電力を確保するために天然ガスによる火力発電を推進しています。

天然ガスは通常液化した状態で貯蔵され、使用するときに気体化されます。そのための貯蔵施設が液化天然ガス受け入れ基地です。

現在台湾には台中と高雄の二箇所に液化天然ガス受け入れ基地があるもののすでに飽和状態。そのため、液化天然ガス受け入れ基地を増設する必要がありました。

その候補となったのが、桃園市沿岸の観塘工業区です。しかしその海岸には貴重な藻礁があったため、この建設予定が決まった馬英九政権時代から環境保護団体が反対活動を行っていました。

日本では藻礁というと海藻類を育てるために海中に沈める人工物を指すようですが、台湾では無節サンゴモ類(石灰を沈着させた藻類)の死骸の堆積による礁のことで、多様な生態系を育む貴重な自然環境となっています。

発議したのは環境保護活動を行っている潘忠政氏。

ちなみに潘忠政が行った反対運動には、当時民進党主席だった蔡英文総統も参加して賛意を示しています。

民進党は、

・藻礁を大部分覆うことになっていた馬英九政権時代の設計案を見直し、藻礁を極力避ける位置にずらすとともに、建設面積も縮小している
・環境への影響を最小限にとどめている
・今後11年の間に北部の電力不足が懸念されており、北部への液化天然ガス受け入れ基地建設は急務である

などの理由で反対しています。

潘忠政氏はもともと台湾独立運動にも参加し、蔡英文総統の支持者でもありましたが、今回のこの発議は国民党による政権揺さぶりに利用された感があります。

全ての発議が不成立

この公民投票は本来8月に行われる予定でした。しかし、その時期は台湾で武漢肺炎の感染が拡大していたために、12月に延期されていました。

蔡英文政権及び民進党は、一貫して「四個不同意」をアピール。ぶっちゃけ液化天然ガス受け入れ基地問題についてはあえて大きく触れない雰囲気が見てとれたものの、他の案については常に国民に対して説明を行い、同意をしないようにと呼びかけてきました。

昨日18日に行われた公民投票では、終始不同意がリード。成立のために必要な有権者の1/4の同意票を得られず、4つ全ての案で不同意が上回ったため、全てが不成立となりました。