なんで中国ってあんなに他国に対して尊大で、常識的に見たら反発されるに決まっている上からの要求をできるんだろう?
そう思っている人は多いと思いますが、その答えは簡単で、中国には「国際社会」という概念がないからです。
「天」の概念を中国に定着させたのは周朝だと考えられています。これは中央アジアの遊牧民が持っていた信仰で、東に伝わって「天」となり、西に伝わって一神教を生み出すきっかけになったとも言われます。
「天」の概念が定着して以降、中国人はこの世界を「天下」としてとらえ、中原を支配した王朝が天から命を受けて天下を統べると妄想しました。ただその妄想は、飛鳥時代までは日本も加わっていた天朝に周辺国が臣従し、中華の威のもとに世界は作られているという所謂華夷秩序として現実に運用されてきました。
日本だって隋末の混乱期にどさくさに紛れて冊封国からは抜け出たものの、遣隋使や遣唐使などの朝貢使はしばらくの間継続し、華夷秩序から完全に外れるまでには時間がかかっています。
要するに中国にとって世界の中心はあくまで中国であり、他国は中国に従うものなのです。
だから中国は他国に対して交渉ではなく命令を行い、そのたびに反発を受ける。でも、偉いのは世界の中心の自分たちだから従わないほうが悪いとその態度を改める気すらないのです。
かくして現代の国際社会においては中国はどんどん孤立していき、ざまあみろといった状況です。
さて閑話休題。
今までのは常識だし本題ではない無駄話でした。
先日中国は、蘇貞昌行政院長、游錫堃立法院長、呉釗燮外交部長の3名を名指しで「台獨頑固分子」に指定し、終身的な刑事責任追及及び、本人たちのみならず関係者全員の中国、香港、マカオへの訪問禁止措置を一方的に言い渡しました。
この壮大なチャイナギャグは台湾では怒りよりもむしろ中国がまた頭悪いことを言い出したと嘲笑の対象になっている感じです。
でも中国人は自分たちのほうが絶対に偉いのだから、中国に入れないようにしてやればきっと困って謝るはずだ!と思っており、そこがまた笑いどころの一つです。
もちろん指名された3人は「はあ、それがなにか?」的な対応でした。
が!ここで抗議の声を挙げる人が出ました。
ドイツに駐在中の台湾大使謝志偉さんです。
超おもしろいので訳します。
“抗議する!
台湾の自由、民主、主権を守るために力を尽くしてきた蘇貞昌、游錫堃、呉釗燮が同時に中国によって台獨頑固分子としてリストアップされ、中国、香港、マカオへ入ることを禁じられた上に終身的に有効な刑事責任の追及をされた。
このニュースを誰かが伝えているのを見て、私は即ネットのあらゆるところで情報収集をした。朝から深夜まで、頭いっぱいの大汗が冷え切るまで。
しかし、ない、ない、ない、
私の名前がない。
「台獨頑固分子」は蘇貞昌、游錫堃、呉釗燮の3人だけだった!
抗議する!私は中共政権に対して強烈に抗議する!
君たちはなぜ私の名前を入れ漏らしているのか?!
私は多年に渡って初心を変えることなく台湾の主権、自由、民主を守ってきた!
そして多年に渡って良心が無く、恥知らずで血も涙もない中共政権を痛烈に批判してきた!
同時に、血に塗れた老K(国民党)を手放すこともなかった。
私はチベット、香港、ウイグル、南モンゴル(内蒙古自治区)などの中国の民主化運動も支持してきた!
これでも足りないか?まだ少なかったか?
結果、結果、なんと私の名前が君たちが公布した「台獨頑固分子」リストにない!
なんて扱いをするんだ!
私がまるで嘘つきみたいじゃないか!
このようにして私の名誉を毀損し、私の名節を傷つけ、人々はどんなに私をあざ笑うことか?!
最悪の場合、人によっては「内通者」だとか、ひどいのだと「特務」の罪名を私にかぶせることもいとわないかもしれない!
だから、私はここに正式に中共政権に向かって強烈な抗議を提出したい
即刻私の名前を「台獨頑固分子」に加えたまえ!
順番は気にしない。リストの一番下でもいいんだ。でもスパイ扱いはされたくない。
私に選択の余地はない。
抗議する!抗議する!”
とまあこんな調子で、この勢いある名文は原文じゃないと味わえないと思うので中国語読める人は原文読んでください。
とにかく、謝志偉さんは自分が「台獨頑固分子」に入っていないのがご不満。中共よ、なぜ台湾のために尽くしてきた私を入れないのだ、私が「台獨頑固分子」に選ばれなかったらおまえたちのスパイだと勘違いされちゃうじゃないか。という趣旨ですね。
ちなみにこの謝志偉さん。外省人2世です。
小林よしのりの『台湾論』あたりで台湾のことをわかったつもりになっているアホなネトウヨなんかは、台湾の現実を知らずに本省人=独立派、外省人=統一派みたいな頭の悪い二元論を正しいかのように振り回していたりするのですが、そんなことはありません。今どき本省人だ外省人だを云々するバカは日本のネトウヨぐらいなものですよ。
台湾の社会は単純なネトウヨのおつむで理解できるような単純なものではないですね。
謝志偉さんは外省人による独立派組織「外省人台湾独立促進会」の創立メンバーとして台湾独立運動に関わってこられました。
その人が台湾独立派か否かに、外省人か本省人かは関係ありません。