学者の加地伸行氏、盛大に中国共産党への台湾侵略アドバイスをおくる

とあるFacebookページで、10月17日付けの産経新聞に掲載されたという学者の加地伸行氏が書いた『古典個展・台湾は百年このままに』なるコラムが引用されているのを見ました。

コラムの要旨を大雑把にまとめると、

・中国が台湾を制すると中国が軍事的に太平洋に拡大するので日本の国益が損害を受ける
・中国が台湾を核攻撃すると台湾が培ってきたAI技術などの高度なテクノロジーが瓦礫と化すから中国は台湾に核攻撃できない
・中国史の中では地方の反乱は常にあったが、中国人は金銭、産物、美女などを提供して和平工作をしてきた
・現状が100年ほど続けば両岸ともに知恵を出し合って新展開があるかもしれないから現状維持を100年続けてはどうか

とまあこんなところ。

多分頭が足りないネトウヨのたぐいは、これを読んで、日本の国益を守るために現状維持を100年続けるのは賛成とか言い出すでしょう。

しかし、まともな知能と日本語の読解力があれば、これは中国に対するアドバイス、あるいはエールに過ぎないことがわかります。

まず、中国が台湾を占領した場合日本に対する軍事的圧力は現状の比ではなくなるのは確かなことなので、この部分に関しては特に文句はありません。

ただ、台湾に核ミサイルを撃ち込む可能性は低いけれど、可能性はないわけではないです。意図的にしろ軍の暴発によるものにしろ、仮に台湾に核ミサイルが撃ち込まれることがあったら、中国は自国の領土にミサイルが落ちた事故に過ぎないと言い張ることは容易に予想できます。

今の中国は自信過剰になっていますから、台湾のテクノロジーが瓦礫と化したところで、放射線汚染が緩和してから自分たちでまた作ればいいぐらいのことは考えていると思います。




台湾は中国に対する「反乱分子」ではない

さてこのコラムでもっとも許しがたいことはこの部分です。

中国の歴史を振り返ってみるがいい。地方の反乱などは絶えずあった。モンゴルをはじめ外国の侵入は、いつものことであったのみならず、中国は、金銭・産物・美女等々を提供して和平工作をしてきた。つまりは、戦争を避けてきたのであり、それは中国人の知恵であった。

10月17日付産経新聞・加地伸行『古典個展』より引用

これはまるで台湾側が中国史の中で絶えずあった「地方の反乱」に過ぎないと言っているようではないですか。

台湾側が反乱を起こしているのだから、中国人はこれまでの歴史に学んで知恵を出して、平和的にこの反乱を治めればいい。という中国に対するアドバイス、もしくは頑張って知恵を出して台湾を併合してねというエールにしか見えません。

そして現状を100年続けて、100年後に中国と台湾双方が知恵を出し合えばいいなどと言っています

つまりこの加地という人物は、実際のところ「現状」がどんなものか一切理解していないわけです。

確かに蒋介石が存命中は、台湾に逃げ延びた防衛政権が、失地回復を狙って大陸側に「反乱」を起こしていたと言えなくもないでしょう。しかしそれはあくまで中国側からの視点です。

台湾では何が起きたか?中国で負けた勢力が台湾を占領し、それまで日本の統治下で台湾人が築いてきた財産を奪い、そして228事件と白色テロで台湾人を虐殺したのです。

台湾側の視点からすれば、蒋介石の中華民国政府は侵略者でしかありません。

加地氏の考えにはまずこの台湾側からの視点が一切抜け落ちており、中国側からの一方的な視点に偏っています。

中国が金銭・産物・美女をおくって和平工作をしたという部分もひどい。

確かに中国側から贈り物をして和平工作をしたことは幾度もあります。

しかし、周辺国から攻められたとき、中国側が勝っている状態で供物を贈ることはありません。供物を贈るのは負けているときで、和平工作といっても贈り物をするからこれ以上は勘弁してくださいという状態です。

金銭・産物・美女というのはたとえ話であるにせよ、中国と台湾は戦争状態にはないし、台湾側が中国を攻撃しているわけでもないから、中国側が何らかの譲歩案を台湾側に提供するのはありえないし、台湾側がそれを飲んで中国側の要求に従う必要もありません。

美女の場合はまた意味合いが違ってきます。歴史上、敵側に美女が贈られることはありました。

しかし、西施も貂蝉も敵側を弱体させるトラップとして贈られました。

加地氏は中国に美人計のような計略をもって台湾を弱体化せよとアドバイスしているのでしょうか?

どうも加地氏は台湾のことを蒋氏独裁政権から奇跡の民主化を果たした民主国家ではなく、いまだ中国への野心を持ち続けている蒋介石時代の「反乱分子」に過ぎないと見ているようです。

現状を維持しろという愚かさ

続いて「現状」についてです。

台湾-中国間のリアルな「現状」とは、独立した民主国家である台湾に中国が軍事的圧力をかけつづてているというものです。

繰り返される中国機の領空侵犯、サイバーテロ、フェイクニュースを用いた混乱誘発、国際組織への参加妨害、言いがかりによる農産物の輸入停止等々。こうした絶え間ない侵略活動が「現状」です。これを今後100年続けろと言うのか?

もちろん台湾側にも問題があります。

現在台湾は民主化を果たしたとはいっても中華民国の統治下にあります。中華民国憲法は中国全土を領土と規定しており、その前提で作られているので実際の台湾にはまったく即していません。

李登輝先生はこれを「大きなコート」と呼び、大きなコートを脱ぎ捨てて体にあった新しいコート、つまり台湾国の憲法を制定すべきであると訴えられておられました。即ちこれが「台湾独立」です。

台湾独立は、中国が意図的に歪めて宣伝する「中華人民共和国からの分離独立」ではありません。日本人の中にも台湾を支持すると言いながらこのプロパガンダにころっと騙され、台湾独立が中華人民共和国から独立することだと思っているバカも多いですが。

台湾はそもそも1秒たりとも中華人民共和国の領土になったことがないのだから、中華人民共和国から独立する必要はありません。

中華民国憲法という「大きなコート」を捨てて中華民国統治下から脱するのが台湾独立です。

しかし現状はいまだその大きなコートを脱げずにいられます。

実はそれは中国にとって非常に都合がいいのです。

中国が最も恐れるのは、台湾が台湾国として正式に独立し、国際社会から承認されることです。そうなれば台湾への攻撃は侵略行為となってしまう。

ところが台湾が中華民国のままでいれば、中国は国共内戦の延長上の内乱であると言い張ることができます。これは別に中国が侵略者になることを恐れているのではなく、他国として国際社会に承認された台湾への侵略行為は米軍の介入を招く可能性がより高くなるということです。

「現状維持」は、中国にとって都合がいい割合のほうが高いのです。

加地氏はそれを100年続けろと言う。加地氏は、その間に台湾が折れて中国に飲み込まれる可能性は想像することができないのでしょうか?

私には加地氏は中国は反乱者である台湾をうまく手懐けろと言っているようにしか思えません。

中国が台湾侵略の野心を捨てなければ問題は解決しない

台湾問題を解決するために最も必要なことは、中国が台湾を占領するという野心を捨てることです。

そうすれば台湾はすんなり中華民国占領下という現状から台湾国への独立を果たすでしょう。

中国がその野心を捨てないことこそが問題の核心です。

世の中には中国が民主化すれば問題が解決すると思っているおめでてえ人もいるけれど、仮に中華人民共和国が崩壊して民主中国が誕生するようなことがあったとしても、その政権が台湾の統治権を主張しない保証などまったくありません。

その中国の野望を挫くためには、まず台湾が独立する。そして国際社会がそれを承認し、米軍が台湾軍と共同で共産党軍(中国人民解放軍は中国共産党の私兵であって国軍ではありません)の侵攻を阻止する。日本の自衛隊がそれを後方支援する。ぐらいのことが必要になるでしょう。

いずれにせよ、加地氏の言っていることは中国にとって有利なことばかりで、加地氏もそれを掲載した産経新聞も、実際のところ日本にさえ被害がなければ台湾がどうなろうとどうでもいいと思っているのでしょうね。