台湾を国として認めることは「二つの中国」を認めることではない

菅総理がわざわざ訪米して発表されたバイデン政権との日米共同声明に「台湾海峡の平和と安定」が記されたのは非常に大きいニュースとして流されました。

これは就任以来唯一と言っていい菅総理の功績でしょう。それがたとえアメリカ側からの提案に唯々諾々と従っただけにしてもです。

しかし、これが報じられてからの日本のマスコミの慌てようといったらないですね。

もともと中国寄りだった時事通信や朝日新聞は当然のこととして、中道や保守系を気取っていたメディアまで「中国が怒りますぞー」と騒ぎ立てています。

そんな中、保守論客として知られるジャーナリストの木村太郎氏がこんな論説を発表しました。

「台湾海峡」と「台湾」は違う 52年前の日米共同声明との比較は無意味だ
https://www.fnn.jp/articles/-/171448

まず、木村氏は「台湾」と「台湾海峡」は違うということにやけにこだわります。

それはなぜか?

今回の日米首脳会談でも米国側は、共同声明に台湾問題を含めることに拘っていたと伝えられるので、きちんと「台湾」という地域名でその平和と安定に日米が支援すると明記する刺激的な宣言を望んでいたのではないか。

それを「台湾海峡」と言い換え、「両岸問題」という現状維持の表現を書き込んで対決色を薄めたのは、台湾の目の前に尖閣諸島が控える日本としては一安心だ。

日本の外交スタッフの労を多としたい。

木村氏は、どうも日本側が台中間の現状を変更させ、米国とともに台湾に与することによって中国と対立するのを恐れているようです。

そして、中国に忖度して「台湾海峡」「両岸問題」という表現に収めた外務省を称賛しています。

この論説で気になった部分があります。

菅・バイデン会談を受けて発表された共同声明は、「台湾」という言葉を52年ぶりに使い注目されているが、これは「一つの中国」を否定する表現なのだろうか?

実は、トニー・ブリンケン米国務長官は最近、台湾を「国家」と「二つの中国」を容認するようなことを公開の場で言ったことがある。

米国務省には台湾を「国家」と呼ばない不文律があり、同省で長年の経験のあるブリンケン長官が知らなかった筈はない。うかつに口にしてしまったのだとしても、潜在的に「二つの中国」の意識があったからではないのか。

木村氏にとって、日本やアメリカが「一つの中国」原則を破るのは非常に恐ろしいことのようです。

そして、台湾を国として認めるのは「二つの中国」を認めることだと思っているようです。

どうも木村氏の中では、台湾はいまだに蒋氏政権のままでいると信じている節があります。

「一つの中国」原則は、中国を名乗る国家はこの世界に一つだけであり、その版図には台湾も入るとするものです。

たしかに蒋氏政権時代までは台湾側も中国が中華民国の領土だと主張し、反攻大陸などという馬鹿げたスローガンを掲げていました。

しかし、民主化以降は違います。

李登輝先生の「二国論」、陳水扁元総統の「一辺一国」は、中国と台湾はそれぞれ違う国であり、台湾は中国に属さない独立国だとするものです。

そこに「二つの中国」を認めさせようという意図はありません。

たまに限りなく知能が低いネトウヨが台湾を擁護するつもりなのか台湾こそ正統中国だなどと言い出したりするのですが、民主台湾に中国になりかわって正統中国となろうなどという蒋介石のような頭の悪い考えはなく、ただ中国とは別の独立国としてありたいというだけのことです。

それを「一つの中国」を壊すものだと騒ぐのは中国だけ。

「一つの中国」を壊すような行為はいけないとする木村氏は、だから中国の側に立って主張していることになります。

木村氏が中国側に立っていることは、現状維持を壊して台湾を侵略しようとしているのは中国の側であることについては何も触れていないことからもわかります。

木村太郎氏は保守系の人だと思っていたけれど、どうも日米が民主国家台湾を守ることより、中国側の言い分のほうが大切なようです。

アメリカがトランプ政権末期から台湾を国として認める動きを示し、政府間の直接交流の門を開いたのは、「二つの中国」などというものを認めるためではありません。台湾が民主陣営の国家として国際社会になくてはらならい存在だと認めたからです。

木村氏のように現在の台湾を理解できていない人は、その違いがわからないのでしょう。