『返校』ドラマ版が12月よりネットフリックスで配信決定

台湾で一斉を風靡したホラーゲーム『返校』を原作とするドラマが12月よりネットフリックスで配信されることになりました。

1960年代を舞台にしたゲームに対し、ドラマ版は1990年代が舞台になるとのこと。

林仕肯プロデューサーはこの配信決定について

権威主義体制によって抑圧された時代を描いた物語がネットフリックスのネットワークを通じて世界に展開され、台湾ならではの歴史を伝えられることは、デジタルデモクラシーが築かれつつある時代において特に意味のあることだ
https://news.yahoo.co.jp/articles/dc946489ad941e4a0f40ba78a9f0a463cfb56324

とコメントを寄せました。

しかし、私はそのプロデューサーの願いは、日本人には届かないと思います。

声優の花江夏樹さんがゲーム版『返校』のプレイ動画を自らのチャンネルで公開しています。

ゲームは学校の歴史の授業のシーンで始まります。先生は「北伐を敢行し」と言っています。

そこでバイ教官と呼ばれる国民党の軍装の男性が現れ、先生を呼び出してリスト云々という話をし始めます。

台湾人ならここでこの北伐とは諸葛亮の北伐ではなく国民党の北伐だと気づくはずです。日本人でも台湾に関心がある人なら気づくでしょう。

主人公は学校の授業中に居眠りをして、起きるとすでに周囲は暗く教室には誰もいません。

外は台風が近づいており、主人公は家に帰ろうとします。

その途中、学校の掲示板を見ると「檢舉匪諜人人有責 發現可疑立即報告(共匪のスパイ検挙はそれぞれに責任がある。発見したらすぐに報告するように)」という告知があります。

日本語版では、「中国本土との戦争に際して諜報を防ぐため、バイ教官は共産主義者や反逆の兆候のある者を密告するように全生徒に呼びかけている」となっています。

何も説明を受けていなくても、これで白色テロの時代であることは分かります。

しかし花江さんは「これ戦時中のお話ですか」と言い出します。

私は別に花江さんが台湾の蒋氏独裁時代のことを知らないことについて責めたいわけではありません。

むしろ、この無理解が大部分の日本人を代表するものだろうと思います。

近年日本人が台湾に関心を持つようになったといっても、それはタピオカミルクティーだのショーロンポーだのがどうこういううっすい関心でしかありません。

だから中国語と台湾語の区別もつかず、なぜ台湾人が中国語で話しているのかも知りません。

そんな程度で戦後の台湾が国民党によってどんな苦難を味あわされてきたのか知るはずもないでしょう。

そんなことはない、228事件のことも白色テロのことも、台湾の民主化への軌跡もわかってる!と思ったそこのあなたは、正しく台湾に関心を持っている人です。でも残念ながら一般的な日本人ではありません。

一般的な日本人の台湾への関心とは、本物とは似ても似つかないセブンイレブンの「台湾風豚角煮丼」を食べて「本場の味!」と言っちゃう程度のものです。

だからってそれを責めるつもりもないです。日本人の他国への興味なんてだいたいそんなものでしょう。

何が言いたいのかというと、ネトフリで1990年を舞台にした『返校』を配信したところで、プロデューサーが言う「権威主義体制によって抑圧された時代を描いた物語がネットフリックスのネットワークを通じて世界に展開され、台湾ならではの歴史を伝えられる」ことにはならないということです。

このドラマを見て台湾の歴史や民主主義の価値に目を向ける日本人が1万人に1人いれば儲けものというもの。

残念ながら日本ではこのドラマは台湾のちょっと変わったホラー作品という扱いで終わると思います。