中共の広告塔であるジャッキー・チェンとの会食は批判されて当然のこと

X JAPANのYOSHIKIさんが、台湾で楽しげにジャッキー・チェンと食事をする画像をインスタグラムに上げたことで、香港、台湾から批判が集まり、謝罪するという出来事がありました。

これを報じたニュースには、事情を知らない日本人が困惑していたとあります。いかに日本人が東アジアの政治情勢について無知であるかを浮き彫りにしたともいえます。

YOSHIKIさんが謝罪をせざるを得なかったのはとばっちりと言えなくもない。しかし、ジャッキー・チェンという人物についてちゃんと理解し、そして現在の香港の状況を理解していれば、そんなことは起こらなかったはずです。




ジャッキー・チェンは中共の広告塔

日本人は、無邪気に、というかバカみたいにジャッキー・チェンは香港の映画スターだと思っています。もちろんかつてはそうでした。

香港が返還という名の下中国に強奪されてから、ジャッキー・チェンは中国本土での活動に重心を移します。

一応この「中国本土」という言葉にも触れておきます。

英国植民地時代から、香港では香港以外の中国のことを「中国本土」と呼んでいました。それは、中国に組み入れられ、一国両制になってからも同様です。だから、香港からの視点で中国を中国本土と呼ぶのは問題ありません。

しかし、台湾に対する中国を「中国本土」と呼ぶおバカさんもいまだ大量に存在します。こういう連中はつまり、中国は台湾にとっての本土であると思っているということになります。なぜ、中国に属さない台湾に対しても「中国本土」などと言って疑問に思わないのかまったく理解できません。

さて、ジャッキー・チェンは中国で活動する中で、共産党に接近します。そして、共産党を代弁するような発言が増えていきました。

2004年の台湾総統選直前、陳水扁総統が銃撃された事件に対し「天大的笑話(天ほどの大きさ、つまり最大級のジョーク)」だと言い放ちました。陳総統の銃撃に対しては、国民党から同情を引くためのやらせだなどという流言も飛んでおり、それに同調したようなコメントで、その後台湾が中国に統一されることを支持するとも発言しています。

2012年には中国人民政治協商会議の委員に選ばれいよいよ中共の広告塔としての立場を鮮明にしました。

日本に関しても、尖閣諸島が中国の領土だと発言。このときは、勝手に彼が親日派だなどと思いこんでいた連中が裏切られたなどと騒ぎましたが、そんな発言は以前からしており、無知が勝手に騒いだだけのこと。

2019年香港デモ

一国両制というのはつまり、中国が台湾に対して示した餌です。

「香港を見てごらんなさい。中国の領土になっても民主体制は守られるから安心ですよ」と、台湾人を油断させ、統一という名の侵略をすすめるための手段の一つでした。

一国両制は50年間維持されるはずだったものが、少しずつ中国に侵食されていっている様子は日本でもたびたび報じられていたので、こんへんは常識として知っているはず。

特に民主派への弾圧が強まる中、香港では香港政府、中国への反発の圧が高まっていました。

今年に入り、「逃亡犯条例」が改正されるというニュースが報じられました。これは、香港で拘束された犯罪者の身柄を、中国本土に引き渡すことができるという改正案です。

これに対し3月に民主派が反対デモを開催。デモは断続的に行われ、その規模を大きくしていきました。その中で、参加者が警官隊に暴力をふるわれる、銃で撃たれるなどの事件も起きて、さらに反発が強まっていきます。

そして6月には100万人規模のデモとなりました。

デモ参加者にどのような弾圧が加えられたかは克明に記録されています。

なぜ犯罪者の身柄引き渡しが反対されているのか?

それは、香港の独立性を著しく侵害することになるからです。この改正案が通ると、中国側が犯罪者であるから引き渡せと要求した人は引き渡されなければならなくなります。

問題は、その「犯罪者」の中には、本当の犯罪者だけではなく、香港の民主派、反中国派も含まれるということです。

台湾にとっても他人事ではない問題

台湾でもこの件は大きく注目され、「今日香港、明日台湾」、台湾が中国に併呑されれば、台湾も香港のようになるぞと警鐘が鳴らされています。

現在中国に属さない台湾にとっても、この改正案が通った場合大きな問題が起きます。

それは、仮に香港で台湾人が犯罪を引き起こした場合、中国側が「台湾人も中国人であるから中国へ引き渡せ」と要求したときは、台湾人の身柄が中国に拘束されることになるからです。

さらに言えば、台湾の独立派活動家、政治家などが香港に訪れたときに、なんらかの罪をかぶせられ、中国に送られてしまうという可能性も含んでいます。

だから、台湾にとってもこの逃亡犯条例改正案は対岸の火事と傍観するわけにはいかない事案なのです。

ジャッキー・チェンは香港のデモを見て見ぬふり

そんな中、ジャッキー・チェンはニューアルバムのPRという名目で台湾を訪れていました。メディアの取材で、香港のデモについて聞かれた彼は、「昨天才知道香港有一個大遊行,我都不知道是什麼事情(昨日はじめて香港でデモがあったことを知った。どういうことなのかよくわからない)」と、しらを切ってスルーする態度。

この態度に対しては台湾でも香港でも大きな批判が起きました。

YOSHIKIさんがジャッキー・チェンと会ったのは、まさにその当日でした。

もちろん個人的に会うのは問題ない。ただ、こういう渦中に、無邪気にそれをSNSで公表するというのは、現在の香港の問題に対する認識が低すぎると言っていいでしょう。

これが日本でしか知られていないような芸能人だったら、何もわかっていない日本人から「わージャッキー・チェンと会ったなんてすごーい」と言われるだけだったかもしれない。ところが、YOSHIKIさんは少なくともアジアでは大スターです。YOSHIKIさんの知名度は、訪台を知った蔡英文総統からお食事のお誘いがかかるほどというのがかえってまずかった。

ちなみに、周杰倫(ジェイ・チョウ)も同じ日にジャッキー・チェンとアフタヌーンティーを楽しむ様子をインスタグラムに上げて批判されています。

確かに交友関係と政治は関係ないとも言えるでしょう。しかし、ジャッキー・チェンは香港の民主化抑制、台湾の併呑の片棒を担いでいる当事者です。ましてやこんな時期に、そういう人物と面会した様子をSNSに公表するとどういうことになるか、ちょっとは考えてから行うべきだったでしょう。

その後、6月16日に行われたデモは、ついに参加者200万人へと膨れ上がりました。