黄昭堂先生の『台湾総督府』が筑摩書房から文庫版で復刻

台湾独立運動の志士であられた黄昭堂先生のことは、台湾に興味がある日本人なら知っていて当然であるから、黄昭堂先生については詳しくは書きません。

黄昭堂先生が、ニュートンプレスから教育社歴史新書の一冊として『台湾総督府』を上梓されたのが1981年。この本はその後絶版になり、長い間入手困難でした。

私は台湾の鴻儒堂出版より、原著の日本語のまま復刻出版された『台湾総督府』を所有しています。

史明先生の『台湾は中国の一部にあらず』と併せ、台湾の歴史を知るために勉強させていただきました。

黄昭堂先生はどちらかというと右派、そして史明先生は左派と言われます。しかし、黄昭堂先生はもともとは史明先生のもとで台湾独立主義を学んだ方であり、方向性は違えど、中華民国の支配下から台湾を独立させねばならないという根本では一致していました。

そしてまた、日本の台湾統治もまた、強権的な外来政権であるという考え方も一致しています。

『台湾総督府』で黄昭堂先生はこう言います。

台湾は現在、蒋政権の統治下にあるが、その支配構造はかつての二本のそれとあまりにも似通っている。

日本帝国はその支配後期に、台湾語の弾圧にのりだし、蒋政権も、後期には台湾語バイブルの没収にみられるように、台湾語の弾圧にのりだした。

もちろん、本書でも例えば

後藤の最大の功績は台湾の衛生の向上であるが、一般にはその阿片政策が注目されている。

ここで五0年にわたる台湾総督府による建設を総括しよう。
もっとも特筆に値するのは教育施設の躍進であり

と、総督府が台湾の発展に寄与したプラス部分にもきちんと触れています。こうした是々非々の考え方は、後の台湾の歴史教科書にも反映されています。

ところが、バカなネトウヨのたぐいが、台湾で日本の台湾統治における正の部分“も”注目されることになったと知ると、故意なのかバカだから理解できないからなのか、まるで日本の台湾統治は手放しで讃えられる素晴らしいものだったかのように曲解し、挙げ句のはてに、国益の部分で日本とぶつかることがあると「恩を忘れたのか」などとキチガイじみたことをいいだす始末となりました。

『台湾総督府』が書かれた1981年ごろにもその手のバカはいたらしく、黄昭堂先生は

戦後、台湾人が親日的傾向に転じたのは、かつて自分たちが教えを受けた国民学校をはじめとする各級学校の教師への敬愛の念がそうさせたのであり、それを「日本の統治がよかったからだ」と曲解する日本人が多いのは、きわめて残念なことである。

と釘を刺します。

現在台湾でも近代化に寄与したとして客観的に評価されていることは、あくまで日本のために行われたことに過ぎません。

八田與一の烏山頭ダムと嘉南大圳のように、旱魃を救い、本当に台湾人の暮らしをよくするために建設されたものなどほとんどありません。

それどころか、総督府は道路建設だ港湾建設だという理由をつけては、台湾人が信仰していた道教の廟を破壊するなど、宗教弾圧を行っています。

本当に台湾のことを理解したいのであれば、日本の統治は台湾を豊かにしてやったのだなどというバカな思い上がりは捨て、この本で正しい歴史を学ぶべきでしょう。


台湾総督府 (ちくま学芸文庫)