日本で配信されている台湾に関する情報は誤解であったり認識不足であったりするものが非常に多く、中には芸能人が台湾に行って中国語で挨拶したら「○○が台湾語で挨拶」なんてことを平気で書いているようなものも珍しくありません。台湾で使われている中国語を台湾語とか言っちゃうやつはあれかな、アメリカではアメリカ語が話されているとか思ってるのかな?
嘘ばっか書いてある記事
さて、朝日新聞デジタル&TRAVELという朝日新聞がやっているwebサイトに「うましなつかし、どこかあやしい……? 台湾・高雄“2泊1日”の旅」という記事を見つけました。
そもそも私は日本では見慣れない外国の文化を「あやしい」などと評する人間は大嫌いです。
さてこの記事にこんなことが書いてあります。
気になるのはもちろんグルメ。とりわけ映画『千と千尋の神隠し』冒頭で豚にされる前のお父さんが夢中で食べていた、あの「肉圓」(バーワン:米粉やサツマイモ粉で作られた皮の中に、豚肉やタケノコなどを包んだ料理)は台湾南部が発祥地と聞いて食さないわけにはいきません。
『千と千尋の神隠し』で、千尋一家が迷い込んだ本来人間は入れないはずの神様たちのための温泉地。その温泉宿「油屋」へ向かう道のお店に盛られていたのは神様へ供するための料理です。しかし、それと知らない千尋の両親は料理を食べてしまったために湯婆婆に豚にされてしまいました。そのとき、千尋のお父さんが食べていたぷにぷにした料理が、台湾の「肉圓」ではないかとネットで噂になったことがあります。
ちなみにこれが本場彰化で食べた肉圓。
この噂が流れた時私は即そんなわけねえと思いました。実際に肉圓を食べたことがあれば、肉圓があそこまでとろりとしたものではないことがわかるし、それにアニメで食べていたものには肉圓に入っているべき具が入っている様子もありません。また、キャプ画をよく見ていたら、ちょっとした突起物も出ています。「千と千尋の神隠し 肉圓」でググって、キャプ画を表示している記事を見てみてください。肉圓にあんなものはありません。
そして、実はスタジオジブリもそれを否定しています。
ロケットニュースの「【噂を検証】『千と千尋の神隠し』でお父さんが食べた “謎のプニプニ” は台湾の「肉圓(バーワン)」ではない! スタジオジブリに聞いたら違うと判明」という記事では、ライターの沢井メグ氏がわざわざスタジオジブリに問い合わせをしています。
・ジブリに聞いてみた → 肉圓ではなかった
プニプニは肉圓なのか? 違うのか? こうなったら、公式に聞くしかない!! ということで、スタジオジブリの広報に問い合わせてみたぞ! ジブリサイドも、肉圓説がネットで拡散しているのも把握されているそう。それも踏まえて、とても丁寧な答えが返って来た。
“
「特定のものではないんですね」つまり、「特別に肉圓をモデルにしたわけではない」というのだ。……違った。公式の回答は、「謎のプニプニ=肉圓」ではなかったのだ。
しかもこの問い合わせ、2016年に行われています。2年以上前に公式に否定されているこの噂を、今回とりあげた記事では「とりわけ映画『千と千尋の神隠し』冒頭で豚にされる前のお父さんが夢中で食べていた、あの「肉圓」」などとさも事実であるかのように書いています。
さて、嘘がもうひとつ。「台湾南部が発祥地と聞いて」という部分。これ誰に聞いたんでしょうかね?
台湾では肉圓は彰化発祥の名物だというのは常識です。台湾のwikiの「肉圓」の項目にはこうあります。
相傳肉圓是在北斗地區的寺廟擔任文筆成生的范萬居先生所創。
訳すと「肉圓は北斗地区の寺廟で文筆成生を担当していた范萬居さんが創始したものだと伝えられる」となります。文筆成生というのは調べたけどなんだかわかりませんでした。ただ書に堪能な人が寺廟で経の書写やらお知らせやらを書く役目をしていたのではないかという推測はできます。北斗地区というのは彰化にある地名です。そして彰化というのは台中市の隣、つまり台湾中部にあります。
これを書いたのは熊山准というライターで、朝日新聞の記者ではないようです。一つの文に嘘を2つもぶちこんでくるのはある意味才能なのでしょうか?文責はライターにあるとはいえ、一切裏取りをしていない文章をそのまま載せてしまうというのはどうなんでしょう?
さて、この記事には高雄周辺の写真が多数掲載されています。そのキャプションにも嘘がありました。
まずはhttps://www.asahi.com/and_travel/gallery/taiwan-kaohsiung/02.html
「もともとはお隣の台南市発祥のグルメ「肉圓」(バーワン) 」というキャプションがついています。南部どころか台南発祥などとさらに嘘を重ねています。
次にhttps://www.asahi.com/and_travel/gallery/taiwan-kaohsiung/06.html
「池の対岸にはビルほどもある天上聖母 媽祖の像が」というキャプションがついています。ここに写されているのは、左營の蓮池潭東岸にある「洲仔清水宮」という廟です。名称からも明確な通り、主祭神が清水祖師の廟。廟の上に乗せられた大きな像も清水祖師のものです。知らないのになんで堂々と嘘をつくんでしょうか?
https://www.asahi.com/and_travel/gallery/taiwan-kaohsiung/13.html
「さらにお隣で関羽をまつる啓明堂へ。蓮池潭の周りはこうした廟(びょう:先祖をまつる場所)がいっぱい」というキャプション。
「廟」は確かに先祖をまつる場所という意味ももちます。しかし、台湾の道教廟は台湾人の先祖を祀っているわけではなく、道教や、道教が民間信仰、仏教などから取り入れた神仏です。これは嘘だとまでは言わないけれど甚だしい事実誤認です。
これ別に個人のブログに書いてあることだったら鼻で笑ってスルーするだけなんですけどね、朝日新聞がやってるサイトに、簡単な裏取りもしない大嘘ついた記事が載せられているというのは問題だと思うんですよ。だからこうして嘘を指摘しました。まあ、めんどくさいから知らせてやったりはしないんですけどね。