閃靈 CHTHONIC 新曲『千歲』の公式MV公開

来年2月に5年ぶりのジャパンツアーを控えた台湾のメタルバンド・閃靈 CHTHONICは、昨日Youtubeに新曲『千歲』のMVを公開しました。閃靈らしいメッセージ性が強いMVになっています。

台湾の王爺千歳信仰

そもそもこの曲は台湾の王爺千歳信仰を知らなければ理解できません。

王爺千歳信仰は台湾に移住した福建人が持ち込んだ宗教文化です。医学が発達していなかった時代、特に南方に多かった瘟疫は瘟神という疫病神がもたらすものだと信じられていました。おそらく初期はその瘟神を祀り、鎮める信仰があったと思われます。しかし後に、瘟神を取り締まり、瘟疫を防ぐ役割を持った神様が考え出されるようになりました。それが王爺、もしくは千歳と呼ばれる神々です。

王爺千歳には、主に中国の歴史上何らかの功績があった人物、もしくは小説などで目覚ましい活躍をしたキャラクターなどが選ばれ、それがそのまま台湾にも伝えられました。

王爺千歳信仰の成立過程を思わされるものに、池府千歳の物語があります。

池府千歳のモデルは唐代に実在した武将・池夢彪。池将軍はある夜夢で瘟神と出会いました。瘟神が玉皇大帝の命により疫病を広めようとしていることを知った将軍は、瘟神に酒を呑ませて歓待します。そして、瘟神が酔って寝たところ、疫病のもとである毒薬を奪い、自らが飲み干しました。すると、現実世界の池夢彪も死んでしまいました。

この池府千歳の神像は広州街の路地にある艋舺啟天宮のもの。顔が黒く、目が飛び出ているのは毒薬をあおって死んだためと言われています。

さて、困ったのは瘟神です。天帝に命じられた仕事を果たせず、やむなく死んだ池夢彪の魂を天帝のもとへひきたてていきました。すると、池夢彪の義侠心にうたれた天帝は、池夢彪を王爺神に封じ、地上から瘟神や悪鬼から守る仕事を命じました。このように王爺千歳が天帝の勅命により地上を守ることを「代天巡狩」といいます。

この物語には、瘟疫が天界より地上を罰するなどの目的でもたらされると信じられていた形跡がうかがわれます。だからこそ疫病をもたらすのは悪鬼妖魔のたぐいではなく、天帝の命を受けた瘟神であるわけです。とはいえ疫病はかんべんしてもらいたいというところから生まれたのが王爺千歳なのでしょう。

現在台湾の7割か8割ぐらいの廟に祀られているであろう人気者の神様・中壇元帥李哪吒にも王爺神としての職能が付与されています。日本でマンガのキャラクターになって人気になったとかガンダムになったとかいうのとは文化的な深みが違います。そっち方面だと「ナタク」なんていうありえない読みになってるし。

『千歲』2つのMV

今回の公式MVに先駆け、実はもうひとつのMVが作られています。

こちらは自ら同性愛者であることを公表している映画監督の周美玲さんが、11月24日に行われた公民投票を前に閃靈とのコラボとして撮影したもの。作中でトランスジェンダーの人物がリンチされ、殺害される様子は、1998年にアメリカで発生したトランスジェンダー差別がもとで殺害されたリタ・ヘスターさんの事件が元になっており、LBGTへの理解や公民投票での婚姻平等化への賛成を呼びかけています。

婚姻平等化については、閃靈、閃靈のボーカル林昶佐が属する時代力量などが一貫して支援しています。

私は周美玲監督の作品ではレイニー・ヤン主演のクィア映画『刺青』しか見たことがないけれど、もうひとりの主人公の師匠である日本人彫師が日本伝統の彫りの技術ではなくタトゥー用の機械を使っているのが納得いかない以外は非常にキマシタワーでよかった。

そしてこちらが昨日「閃靈宇宙」バージョンとして公開されたMV。

こちらはここ数年閃靈がメインテーマとしている228事件と白色テロがテーマになっていると思われます。作中に出てくる顔が塗りつぶされた写真は、蒋氏政権の白色テロの犠牲になった人々を表しているのでしょう。

歌詞の「拜別虎爺 再會金獅」、この世での財運栄達をもたらす虎爺、金獅に別れを告げ、「千歲 代天巡狩 請閣庇佑」王爺千歳の代天巡狩による加護を願うというサビは、台湾のために身命を賭し、独裁政権に殺害された人々の願いが重なっているように思えます。代天巡狩により討伐されるべき悪霊は当然国民党です。

閃靈の曲はちゃんと理解するためにはこのように台湾の文化、歴史をわかっていないといけないけれど、とりあえずかっこいいので、まずは聞いてみてください。