台湾正名運動と婚姻の平等はまったく別の問題で同列に語るべきことではない

WebメディアWEDGE Infinityに掲載された台湾在住ライター・栖来ひかりさんの

「同性婚反対」に傾いた台湾社会の矛盾

を読みました。詳しくはリンク先の本文を読んでください。内容の大意は、11月24日に台湾で行われた公民投票において、同性婚に対し否定的な結果が出たことについて、それは台湾が勝ち得た民主主義への矛盾ではないかと疑問を投げかけるものでした。

台湾正名運動と同性婚問題を同列に語るべきではない

今回の公民投票に限らず、同性婚についてはキリスト教団体が強烈に反対を表明してきました。中でも古い歴史を持つ長老教会はその最先鋒に立っていました。キリスト教長老教会は長年台湾独立を支えてきた強力な基盤でもあります。

故に栖来さんはこう言います。

 筆者の参加しているLINEグループにもグリーン陣営の年配の知人から公民投票で、「反同性婚」「反LGBT教育」「オリンピック正名推進」に同意するようにという内容が選挙前に流れてきた。これは公民投票の数字にも表れており、オリンピック正名参加を問うた第13案については476万の同意票が集まったにも拘らず、同性婚に同意したのは338万票だった。

 つまり、この差140万人は少なくとも、国際的にマイノリティーである台湾の在り方に不公平を唱えながらも、台湾社会のなかのマイノリティーに対する不公平については疑問を感じていないことになる。今回の公民投票で明らかにされたのは、台湾の主権・伝統的価値観・経済発展への展望をめぐって台湾社会が抱える矛盾やほころびであった。

グリーン陣営というのは台湾独立派、本土派を指す言葉です。

いくつか解説を入れておきます。

まず「台湾独立」について。このブログでは何度も書いていることではありますが、ここでも書いておきます。なぜならば日本人でこの問題について正しく理解している人があまりにも少ないからです。

台湾独立とは中華人民共和国からの独立を意味しません。今現在台湾は中華人民共和国の領土ではないゆえ、わざわざ独立する必要がないからです。台湾独立を「中華人民共和国からの独立」と思っている人は、台湾が中国の領土であるという中国側のプロパガンダを真に受けている情弱だと言っていいでしょう。

本来的な意味での台湾独立は、現在台湾を支配している中華民国から独立建国しようというものです。すでに台湾は独立国であるから、独立を唱えず、中華民国憲法を破棄して中華民国から「台湾国」へ国号を正せば良いというのが正名運動です(本来は在日台湾人の国籍記載を「中国」から「台湾」へ正そうという運動が始まりでした)。

次に、同性婚について。同性婚についてはすでに台湾の大法官が同性婚を認めないのは違憲であるとする判断を出しています。今回LGBT団体が出した項目は同性婚の合法化を問うものではなく、婚姻の平等を問うものでした。

私自身の意見を一応表明しておくと、台湾の独立建国は最大限支持しているし、同時に婚姻の平等化やLGBTの人権保護についても支持しています。このような意見を持っているのは私だけではなく、例えば独立派政党である時代力量も婚姻の平等化を支持しています。独立派といっても頑迷な保守派もいれば、時代力量のようなリベラル派もいます。

そのうえで、栖来さんの考え方には疑問を呈します。

オリンピック正名参加、つまり「中華台北」ではなく「台湾」名義での参加への同意というのは「国際的にマイノリティーである台湾の在り方に不公平を唱え」ているわけではありません。中国からの圧力により「中華台北」などというこの世に存在しない国名での参加への不満票です。

だからそれと同性婚へ同意しなかった票への差を「台湾社会のなかのマイノリティーに対する不公平については疑問を感じていないことになる」というのはいささか強引ではないかと思うわけです。

もちろんマイノリティーへの不公平は解消されるべきです。それは台湾のみならず日本でも問われるべき問題です。とはいえ、こうしたことが公民投票で問われること自体、台湾のほうが日本より人権意識が進んでいると言ってもいいのではないかと思います。

「台湾」名義でのオリンピックやその他国際スポーツ大会への参加、ひいては中華民国支配からの台湾独立は、確かに「人権」という観点から見ればLGBTの権利と同列に語れるものであると言えなくもない。しかし実際には本質的にまったく違うものですから、台湾独立や正名運動を支持するならば同性婚も同様に支持すべきであるということにはなりません。逆に同性婚支持者が必ずしも台湾独立を支持しているとも言えません。

また、キリスト教団体が同性婚に反対するのは、独立建国うんぬんとはまったく関わりがない、彼らの根幹であるキリスト教の教義によるものです。つまり彼らが台湾独立の強力な支持基盤であるというのと、キリスト教の教義により同性婚を認めないというのはまったく関係がない話です。ここで問うべきなのは、そこではなく、宗教の教義を根拠にマイノリティーの人権向上に異を唱えていいのかということです。

オリンピックへの「正名」を支持するのに、同性婚を支持しないのはおかしいじゃないか、矛盾しているじゃないかというのはあまりにも強引で短絡的な見方であると言わねばなりません。

この2つはそれぞれ分けて、台湾社会がそれぞれ改善していかねばならないことです。