昨日台湾で行われた国内県・市の長、議員を選出する統一地方選挙は、結論から言えば民進党の敗北に終わりました。県長、直轄市長選では、合計で22ある長のうち民進党がとれたのはわずか6にとどまっており、県、市議員も、国民党393議席に対して民進党は238議席に留まっています。
蔡英文政権への失望か中国側の工作か
特に重要だったのは、政府直轄市である台北市、新北市、桃園市、台中市、台南市、高雄市の6ヶ所。このうち台北市は現職の柯文哲市長が辛勝といってもいい得票率で勝利。民進党候補が当選したのは桃園市と台南市の2ヶ所のみで、改選前民進党がおさえていた台中市と高雄市は、国民党候補に奪われました。
特に「韓流」などとも呼ばれていた高雄市の韓國瑜氏の勢いは凄まじく、伝統的に本土意識が高い高雄において国民党候補が勝利したのは異常事態と言ってもいいでしょう。
これを受け、蔡英文総統は民進党主席からの辞任を表明しました。
日本ではおそらく、この結果を招いたのは蔡英文政権の失政への失望が原因であるとのみ伝えられるでしょう。
確かに蔡英文総統は就任以来国民の期待に応えられていませんでした。特に馬英九政権が覆された原因の根底にあった若い世代の低賃金問題を改善できていないというのは大きいでしょう。
それとは別に、非常に高いカリスマ性を持つ陳菊氏を高雄市からとりあげ、総統府に置いたのは、大きな失策だったと思われます。高雄市では陳菊氏の後継者が育っておらず、そこに派手な言動で登場した韓國瑜氏の勢いに乗じられて敗北しました。
ただ、では民進党政権の失政だけでこうも大きく勢力図が変わるかといえば疑問です。
そこにはやはり中国側の工作があったと見るのが当然です。といってもスパイ映画のことく中国人スパイが台湾に入り込んで暗躍していたというようなことではなく、中国に進出している企業への恫喝、低賃金に悩む若い世代の優遇策、留学生への洗脳教育などの効果があらわれているということです。
特にアメとムチの台湾対策のうちアメの部分は蔡英文政権成立後に強化されており、太陽花学生運動や時代力量など一部の勢力による台湾意識醸成はあったものの、政府として中国の台湾人懐柔策に対抗する対策はとれていませんでした。ここの点も蔡英文政権の失策と言っていいでしょう。
つまり、今回の民進党大敗は、蔡英文政権の失政と老獪な中国の工作が悪い意味で噛み合ってしまったことにより生まれた結果ではないかと思われます。
「台湾」名義でのオリンピック参加かなわず
もう一つ注目されていたのが、10項目の公民投票です。このうち3つほどは国民党の民進党へのいちゃもんだったのでどうでもいいわけですが、日本人から見ても期待された、台湾代表のスポーツ選手団が、オリンピックを始めとした国際大会に「中華台北」などという地球上に存在しない名義ではなく「台湾」名義で参加すべきであるという項目は、残念ながら不成立に終わりました。
これについては「台湾」名義では台湾の選手たちは国際大会に参加できなくなるというデマが流れ、その影響もあったと思われます。これは明らかに中国側の工作によるものでしょう。
ただ、この問題について私は抜本的に改善するには、中華民国を捨てて台湾国として独立建国する必要があると考えます。
しかし国際社会に対しても問題提起をできたという点では、意味があったのではないかとも言えます。
他に、同性婚などを認める婚姻平等化についての項目は、いずれも同性婚が認められないという結果に終わりました。ただ、こちらについては今後旧弊な婚姻観を持つ世代が減っていくにつれてよい方向に向かっていくという希望もあります。
柯文哲市長はどちらへ向かうか
問題なのは再選を果たした柯文哲台北市長です。柯市長は、近年中国寄りで反台湾の発言を繰り返しており、本土派からの批判を集めていました。
例えば「両岸一家親=台湾と中国の両岸は一家である」とか、病気療養中の陳水扁元総統は仮病である。国民の素質が低いからこんな総統が選ばれた等々。
国民党にも民進党にも属さない柯市長は台北を大きく改革することが期待され、実際就任当初は改革の手腕を見せて台北市民から歓迎されていました。それが少しずつ軌道を外れるようになり、支持者だった側からも批判が増えて行きました。
今回は再選したとはいえ辛勝だったのもそうした有権者の意識を反映したものでしょう。
柯市長が今後も中国寄りの姿勢を続けるなら、求心力はますます低下するのは間違いありません。