台南に独立運動の先駆者・王育徳先生の紀念館開館

台湾に惚れ込んだ初期、私は台湾に関する本を読み漁りました。特に白色テロや台湾独立運動についての本を多く読みました。その中でもバイブルとも言えるのが王育徳先生の『新しい台湾』と『台湾海峡』です(『新しい台湾』については宗像隆幸先生との共著)。

王育徳先生

王育徳先生は大正13年=1924年生まれ。戦時中に東京帝大に入学したものの、戦局の悪化をうけて台湾に戻ったまま終戦を迎えます。しかし、1947年の228事件で国民党にお兄さんを殺されたために国民党を批判したために香港経由で日本に入り、明治大学で講師などをしながら台湾語の研究とともに、蒋氏独裁政権下の台湾の現状を訴え、台湾独立運動の基礎をつくりました。

私は2冊の本から台湾の歴史、228事件、祖国を追われながら祖国のために奮闘する人々の姿を学びました。

鄭成功について孫文・蒋介石と並ぶ台湾の国神だなどと国民党のプロパガンダをそのまま垂れ流している愚かな日本人がいますが、王先生の本を読めばそれがいかに間違っているかがわかるでしょう。

王先生は生涯を日本で台湾のために捧げ、台湾独立の思想を確立するとともに、日本政府に見捨てられる形になった台湾人元日本兵・軍属たちが慰労金を受け取れるように力を尽くされました。1985年台湾の民主化を見ることなく亡くなっています。

『新しい台湾』のまえがきにはこうあります。

 私は、やむにやまれぬ気持ちからこの本を書いた。この本はわが同胞一千万の台湾人が、いかなる過去を背負い、現在いかなる境遇にあり、将来どこに活路を見出すべきかを探求死体一年で、筆をとったものである。
 台湾は今日、東西冷戦のもっとも白熱した接点の一つともなっているので、この本がひいては外国人読者に、台湾の現実に対する認識を深めさせ、問題点の由来を知らしめ、正しい解決の方法をさぐる一助にもなろうと期待する。
 私は本屋へ入るたびに、羨望と焦燥を感ずる。「汗牛充棟」のことばそのままのおびたたしい書籍。森羅万象にわたって百花繚乱の観がある。しかし、このなかにわが台湾のことを書いた本が、いったい何冊まじっていることであろう。

この格調高い文章に、戦前帝大まで行った人の教養の高さを感じとることができます。それとともに、ソ連の存在がなくなり、東西冷戦などとっくに終わっている数十年後の日本もあまり状況は変わっていないことに愕然とします。

今の日本の本屋にはどこの小籠包がうまいだのどこのカフェがSNS映えするだのというどうでもいいことが書かれた本はいっぱいあっても、台湾の歴史や現状を伝える本は皆無といっていい。日本人のほとんどは、今も昔も台湾のことをまったく理解していません。

台南に王育徳紀念館開館

王先生の命日である9月9日、王先生の故郷である台南に「王育徳紀念館」が開館。93歳になられた奥様の王雪梅さんとお孫さんが開館式典に参加されました。

特に注目されるのは1961年に日本を訪問した李登輝先生が、王先生と面会し台湾の将来について語り合ったというメッセージ。李登輝先生が池田勇人内閣時に来日し「所得倍増計画」の影響を受けたというのは有名な話ですが、そのときに王先生と面会されていたということは、台湾が民主化を実現する35年も前から台湾の将来について考えておられたことを示します。

王育徳紀念館は、台南駅の南西方面にある吳園公園内にあります。