台湾人がなぜか哪吒三太子を好きすぎる

台湾の宗教の主流は中国からの移民が持ち込んだ道教です。特に人気なのは天上聖母媽祖や関聖帝君、城隍や福徳正神など。斉天大聖=孫悟空も人気でいろんな廟に祀られます。斉天大聖は講談や小説の架空のキャラじゃないか?それを言うなら元始天尊や玉皇大帝、西王母だって架空の創作された神様なんだからいいんじゃね?と思います。

さてそんな神様が大量に祀られる中、特に人気の神様がいます。それは、中壇元帥=哪吒三太子です。哪吒の元ネタはインド神話のナラクーバラというかなり脇役的な神様です。ナラクーバラは財宝の守り神で夜叉王であるクベーラの息子です。クベーラは大乗仏教がパクって仏教の守護神とされ、その息子のナラクーバラも取り入れられました。

仏教が中国に伝わると、クベーラは毘沙門天(もしくは多聞天)となり、ナラクーバラは那羅鳩婆や那吒矩缽羅と当て字されました。それがいつしか那吒と短く呼ばれるようになります。現在は一般的に「哪吒」と表記されていますが那吒でもどっちでもいいです。

宋代にはこんな伝説が記録されています。

唐代の释道宣という僧侶が夜に階段を踏み外したところ、少年が足を支えてくれたので、こんな夜中にどなたかなと聞くと「私は普通の人間ではなく毘沙門天の王子の太子です。護法のために和尚を守っておりました」と答えました。そこで和尚が「拙僧は修行中ゆえ太子を煩わせるまでもありません。西域でも仏教が広まるように太子にお願いいたす」というと「仏牙(お釈迦様の歯)を差し上げましょう」と仏牙をいただきました。今の崇聖寺の仏牙がそのときのものです。

この仏牙と言われるものは、最澄の弟子である慈覚大師円仁も見たと記しています。つまり崇聖寺がそういう伝説を作ったのでしょう。おそらく宋代には少なくとも仏教の世界では広く知られる護法神となっていたのではないでしょうか?そしてその宋代には道教が哪吒をパクりました。

明代の道教経典『三教源流搜神大全』では、すでに身の丈6丈(およそ20m)の三頭九眼八臂、玉皇大帝の命により地上にあふれる魔王を討つため托塔天王李靖の息子として転生し、生後5日で龍王を殺したなどという設定が作られていました。その設定は後に『西遊記』『封神演義』などに取り入れられ、それ以後は民間でももはや元ネタとは一切関係ない人気キャラとして愛されるようになりました。

托塔天王李靖は、ナラクーバラの父親である毘沙門天が道教に取り入れられた神様です。毘沙門天は宝塔を手に乗せています。これは元ネタのクベーラの属性が反映されたものでしょう。そこから道教では「托塔天王」という神名がつき、そしてなぜか唐太宗の臣下である李靖と結び付けられました。道教に取り入れられた哪吒が李姓になったのもこのためです。

台湾のどこにでも祀られる

おそらくは清代にはすでに南方でも道教神として信仰されており、福建などの移民が媽祖や王爺信仰などとともに台湾に伝えたのでしょう。現在の台湾では「太子爺」と呼ばれて、道教の設定上ではなんの関係もない神様の廟にもその姿が見られます。

例えば萬華の三玄太子宮や、

迪化街の三聖太子宮など哪吒を主祭神とする廟もあることはあります。しかしその数は少ないです。むしろ哪吒は他の神様の前に置かれ、護衛のような役割になっていることが多いです。ちなみにこの三聖太子宮にある三面六臂フォームの像は、どこでもごろごろ見られる哪吒の像の中でもレアなものです。

台湾省城隍廟。

迪化街の霞海城隍廟。くねった槍を持っているのが哪吒です。槍がくねっているのは火尖鎗を表現したものです。哪吒は初期は玉皇大帝直属で、後に玄天上帝の配下とされたりしているものの、本来は都市の守り神である城隍よりは偉いはずです。

これは228紀念公園の隅っこにある福徳宮。土地公=福徳正神は『西遊記』では孫悟空に頭が上がらないあんまり地位は高くない神様ですが、ここにも哪吒が祀られています。

こちらは鸞堂系の廟松山慈恵堂。片足だけ風火輪に乗っている像が多い中、両足で乗っている像は意外とレアです。

台北を出て新北市蘆洲保和宮の中壇元帥の祭壇。

同じく蘆洲の真久宮には哪吒、木吒、金吒の李家三兄弟の大仙翁仔がありました。

板橋の慈恵宮には青年姿の哪吒の大仙翁仔。三太子は普通少年の象形にされるところ、こうした青年姿なのはこれまたレアです。

新荘の北巡聖安宮。こちらは嘉義の富安宮から義愛公=森川清治郎巡査の分霊を受けて祀っている廟です。中壇元帥の後ろに義愛公の神像が祀られています。

桃園国際空港の近くにある関帝廟、誠聖宮。

台中の鄭成功を祀る國姓廟。鄭成功と哪吒なんてほんとなんの関係もないですからね。

彰化の東嶽廟、南天宮。後ろの大きい神像は斉天大聖です。

台南の開基陰陽公廟。

高雄、左営の神農廟、豊穀宮。

左営には中壇元帥が主祭神の天府宮もあります。

このように哪吒三太子は台湾北部から南部までまんべんなくいろんな廟に祀られています。関係ない廟にも祀られているのは、人気の神様を祀っておくと参拝者が増えるからです。つまり北から南まで三太子大人気ということ、ここにご紹介した三太子はほんのごく一部で、特に小さい廟ほど参拝者を呼ぶためにか三太子率が多いです。『西遊記』や『封神演義』が好きな人は台湾に行ったら探してみてください。つっても特に苦労せず見つかります。