台湾で人気の神様バディ七爺八爺

台湾の廟に行くとよく主祭神の両脇などに大きな人形が並べられていることがあります。これは「大仙尪仔」とか「大仙翁仔」といって、お祭りのときに人がかぶって、神輿の巡行に従って練り歩くためのものです。大仙尪仔は様々な神様のものがあり、今まで見たことがあるものだと顕聖二郎真君や中壇元帥李哪吒、岳飛や殷郊などがありました。横浜中華街で毎年行われる「関帝誕」では、四海龍王の大仙尪仔も見られます。

特に人気の七爺八爺

台湾には本当に数多くの神様が祀られる廟があります。その中でも城隍や王爺などといった地上の霊的空間を警備し、瘟神(疫病神)や悪鬼などを天帝に代わって退治したり、捕縛して裁判にかけたりする役割をもった神様の廟に必ずいるのが七爺=謝将軍と八爺=范将軍の二神です。

伝説では謝将軍こと謝必安、范将軍こと范無救は幼いころより深く友誼を結んで常にともにいました。ある日二人で歩いていると雨が降ってきたので、謝必安が范無救を近くの橋の下であまやどりさせ、自分は傘をとりに行くと、その間に川が増水して背が低い范無救は溺れ死んでしまいました。謝必安は助けることが叶わなかったことをはかなんで首をつって後を追いました。さあ腐女子のみなさんは妄想していいですよ。

また別の伝説では二人は衙門差人、今で言う警察官で、護送していた犯人を取り逃がしてしまいました。そこでどうするか相談するために橋の下で待ち合わせることにしましたが、雨が降り出し洪水になって先に待っていた范無救は溺れ死に、謝必安はやっぱり首をつって死にました。

はたまたある伝説では、二人は唐朝のころの軍人で、安禄山の乱で謝必安は叛徒に捕まり絞首刑にされ、謝必安を助けられなかった范無救は入水自殺したとか。

とにかく二人は一心同体で、一人が死ねばもう自分も後を追わずにはいられなかった間柄でした。さあ腐女子のみなさんは妄想していいですよ。

そして、死後の二人は陰間つまり死者の世界で悪霊などを捕縛する霊界警察官のような職についたというわけです。二人の名前謝必安には、罪を謝り必ず平安にする、范無救には罪を犯したものには救いがない(范と犯は中国語でも同音)という意味が込められているともいいます。

こちらが七爺謝将軍。背が高く、ベロを出しています。これは首吊り自殺をしたためだそうです。

こちらが八爺范将軍。背が小さいほうです。

この大仙尪仔は艋舺青山宮のもの。青山宮の主祭神・靈安尊王は福建の泉州から移民によって台湾に将来された神様です。もとの泉州では山の守り神でした。ところが艋舺で疫病が流行したときに靈安尊王をお祀りし、祈ったところ流行が収まったため、疫病をもたらす瘟神を討つ王爺信仰が結びつき、天帝に代わって地上を守る「代天巡狩」の職能が与えられたと日本の学者・鈴木清一郎氏が著書に書いていたと台湾のwikiにありました。

道教のお祀りは主祭神の誕生日に行われます。青山宮では靈安尊王の誕生日である農暦10月22日の3日ほど前から盛大な「青山祭」が行われます。これは日本の祇園祭りのような疫病を祓う意味をもちます。

七爺八爺の大仙尪仔は靈安尊王の先触れのような役割で街を練り歩きます。

七爺八爺は八家將の一員

なぜこの二神が七爺八爺と呼ばれているのかについてです。二神は福建を起源とする王爺信仰=王爺もしくは千歳と呼ばれる代天巡狩の職能を持った神様への信仰において、王爺に仕える八家將の末席に加えられているからです。八家將は春夏秋冬それぞれの神様と甘将軍、柳将軍に七爺八爺を加えた八柱の神様からなる軍団で、将軍たちは瘟神や悪霊を捕える役割、四季の神様は捕えられた悪霊を取り調べる役割をもちます。悪霊は最終的には司法の職能をもつ城隍などによって裁かれ、陰間に送られます。陰間といっても日本の少年男娼を意味する陰間とは違います。

ただ、二神は謝将軍が大爺、范将軍が二爺となる場合もあるようです。

新竹の都城隍廟では范将軍が二爺となっていました。

謝将軍は背が高いのでプレートとうまく収まってくれませんでしたが大爺になっています。

また、謝将軍の顔は首吊りをしたため白く、范将軍の顔は溺死したために黒くなっているという伝承もあり、この場合謝将軍が白無常、范将軍が黒無常と呼ばれることもあります。

台北の迪化街で西秦王爺を祀る保安社にいる七爺八爺も白黒バージョンになっています。真ん中にいるのは李哪吒です。哪吒は人気者なのでどこにでも祀られています。西秦王爺はまた、芸能神の西秦尊王とも呼ばれており、唐の太宗だとか玄宗だとか言われているけどどうなんだかはわかりません。

迪化街の哪吒を主祭神とする三聖太子宮の顔だけ七爺八爺。時には哪吒のようなあんまり関係性がない神様の廟にも祀られることがあります。七爺八爺の人気の高さがうかがわれます。

こちらは重慶北路のカルフールにほどちかい大稻埕慈聖宮の七爺八爺。慈聖宮は媽祖廟で、航海の守護神である媽祖と城隍や王爺など陰間の司法神とは職能が違いますが、ここでは七爺八爺も習合されています。

七爺八爺は全台湾で祀られる

七爺八爺は台北や新竹など北部でだけ祀られているわけではなく、南部でも信仰されています。

こちらは台南の東嶽廟の七爺八爺。東嶽廟の主祭神は地獄の王である仁聖東嶽大帝。『封神演義』では武成王黄飛虎が封じられたことになっている神様です。ちなみに日本で地獄の王のような扱いになっている閻魔大王は道教の設定では東嶽大帝の配下となります。こちらではなぜか范将軍まで舌を出してしまっています。

こちらは台南の開基陰陽公廟。陰陽公は城隍直属の審判員のような神様です。ここでもなんでか李哪吒が挟まれています。哪吒って序列的にはけっこう偉いはずなんですが。

そしてこちらは高雄の左営にある旧城城隍廟の七爺八爺。

同じく旧城城隍廟。

東部のほうは巡ったことがないのでちょっと断言できませんが、七爺八爺はかなり広く信仰されています。悪霊を捕縛する神様なのでヒーロー的な人気もあるのかもしれません。また、生前親密だった二人が死をともにして死後も神様としていっしょにいるというストーリーもキャラが立っていて人気になりやすいのでしょう。三国志や水滸伝が人気なのも男たちの濃密な結義があればこそですよね。

台湾に行ったときはそのへんのところも気にしてみるとより楽しめるかもしれません。