割と日本人が勘違いしそうな台湾華語の言葉

中国語を勉強したことがない日本人の中には、漢字や日本語の熟語を並べれば筆談が通じると思っているアホもいるわけですが、そんなわけあるか。こちらが書いたものが通じるならばあちらが書いたものもわかるはず。でも中国語勉強したこともないのに中国語の文章わかるはずないでしょ?漢文の素養があればある程度は読めるかもしれないけど、日本で漢文と呼ばれているものは中国語の古文でありしかも文語体ですから、外国人が日本語の古文を勉強したところで現代日本語を理解できるようにならないのと同様、漢文では現代中国語を理解はできません。

やっかいなのは、日本語の熟語とまったく同じなのに意味が違うというもの。台湾式の中国語=台湾華語にもそんなのがいっぱいあります。その一部を解説しようと思います。台湾華語での読み方は勉強してください。

芸人

日本では芸人というと主にお笑い芸人のことを指します。それをひっくるめて芸能活動をする人は芸能人ですね。しかし、台湾で藝人といったら芸能人のことです。ではお笑い芸人はどういうのかといえば搞笑藝人です。「搞笑」にはお笑いとかギャグといった意味があります。

名人

台湾で「名人」というと「メイジン・カワグチ」のようななにかに秀でた人という意味ではなく「有名人」という意味になります。日本語の「名人」は「高手」です。最近は日本語の「達人」も使われるようになっています。

新聞

台湾で新聞といったら「ニュース」のことです。台湾ではケーブルテレビが発達していて100を超えるチャンネルがあり、その中にはニュース専門チャンネルもたくさんあります。中でも人気なのは台湾寄りの報道で知られる「民視新聞台」。これは民視というテレビ局が提供しているニュースチャンネルです。

「體育新聞」ならスポーツニュースだし、「晨間新聞」は朝のニュース、「晚間新聞」は夜のニュースです。「新聞網」ならニュースネットワークですね。

日本語の新聞は「報紙」と言います。

烏龍

烏龍茶の烏龍です。台湾の烏龍茶の茶葉は台湾で独自発展して丸くつぶれた形をしています。しかしもともとは丸く押しつぶす団揉という工程はなく、また発酵度も焙煎度も高かったために黒っぽくねじれた形になりました。烏龍茶の発祥の地は福建で、福建語では黒は烏といいます。台湾の黒酢は「烏醋」です。そしてねじれた形が龍っぽかったので烏龍茶という名前がつけられたといいます。


中国産の烏龍茶「大紅袍」

しかし、お茶ではない「烏龍」にはまったく違う意味があります。それはアホなとかでたらめなといった意味です。台湾のニュースを見ていると「烏龍事件」とか「烏龍新聞」などという単語を目にします。

『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は台湾では『烏龍派出所』です。これは「烏龍」の意味を知らなければどうしてそういうタイトルになったのか理解できません。

さて、台湾ではもう一つ「烏龍」が使われることがあります。それは「烏龍麵」です。実はこれは「うどん」のこと。うどんとうーろんが音が似ているので当て字に使っているわけです。博多ではうどんを「うろん」と発音するそうで、博多の人がうどんを「うろん」として伝えたという可能性もあります。

天婦羅

基隆の廟口夜市の名物に「天婦羅」があります。

これがその「天婦羅」。そう、さつま揚げです。九州ではさつま揚げはてんぷらと呼びます。日本時代、台湾には地理的に近い九州の人が多く移住しました。うどんと同様九州の人が台湾に及ぼした食文化の影響を思わされます。

こちらの「甜不辣」も同じさつま揚げのことで、「甜不辣」は「てんぷら」の当て字ですが、ちょっと甘めの味噌ダレをかけるおでんのような煮物も「甜不辣」と呼びます。甘くて辛くないという意味も含めた秀逸な当て字です。

今度てんやが台湾に進出します。てんぷらの表記はどうなるんでしょうね?

人間美味

夜市なんかでよく見かける言葉「人間美味」これは「ニンゲン、ウマイ」ということではありません。そもそも中国語の「人間」には日本語の「にんげん」という意味はありません。日本語の「にんげん」は「人類」と言います。

高校一年の国語の授業で「人間」には「にんげん」の他に「じんかん」という読み方もあります。と教わりました。「じんかん」と読む場合は「人の世」という意味になります。「人間美味」はまさにその「じんかん」つまり人の世にある美味という意味。この世のうまいもんがここにある!的なアピールですね。

大丈夫

これは台南の祀典武廟に掲げられた扁額。祀典武廟は台湾で最も古い関帝廟とされます。

大丈夫はもちろん日本語の「だいじょうぶ」ではありません。「大」「丈夫」に分けられます。「丈夫」は中国では旦那さんという意味でも使われますが、男性一般のことも意味します。それが「大」というのは立派な男性という意味。そういう意味で関羽はまさに「大丈夫」です。日本にももともとその意味で入ってきたはずで、立派な男=安心できると意味が転じて日本語の「だいじょうぶ」になったものと思われます。最近の「けっこうです」「いいです」の意味で「だいじょうぶです」というガキにはもうわけわかんねえから日本語しゃべれよお前と思いますね。

最近では台湾人でも日本語的に「大丈夫」を使う若い子もいますが、それは会話ではなくネットスラング的に使われています。

先生

中国では「丈夫」は旦那さんの意味でも使われると書きました。では台湾ではというと一般的に「先生」と言います。女性が「我的先生」と言ったとき、それはその人のご主人を意味します。

しかし、それ以外では「ミスター」の意味もあります。李登輝先生が台湾の民主化を果たしたとき、海外で「ミスターデモクラシー」と称されました。台湾ではそれを直訳して「民主先生」と呼びました。

他に、名前を知らない男性に呼びかける時に「先生」を使います。日本でも年配の人が名前を知らない人に呼びかける時「そこの旦那さん」とか言うのと近いニュアンスではないかと思います。

以前、自殺した西部邁氏が、TokyoMXの番組で中国語では「先生」は日本語の「さん」に当たるから非常に軽い言葉だなどと言っていました。しかし、上に書いたように実際には日本語の「さん」というよりは「ミスター」の意味で使われます。例えば「森先生」と言った場合は日本語に訳せば確かに「森さん」になります。でも日本語だと誰にでも使う「さん」とは違い、もっと敬意がこもったニュアンスで使われます。軽い使われ方をされているのは日本語の「さん」のほうです。中国語の「先生」を「さん」とするのはあくまで便宜的な解釈であって、言葉の軽さまで同じになるわけではありません。

言葉というのは意味だけではなくどういう使い方をするものかまでわかっていなければ、本当に理解したことにはなりません。

というわけで台湾には日本語と同じ表記でも意味がまったく違う言葉がたくさんあります。それを日本語で解釈してわかったつもりになると思わぬ痛い目にあうかもしれません。

最後に実際痛い目にあったアホな日本人の例。

台湾に住んでいるときに、中国語もできないくせに何年も台湾に住んでいる(というより出たり入ったりしている)関西人と知り合いました。彼は英語はできるので英語ができる台湾人女性を必死にひっかけようとしていました。そんなある日、台南出身の女性と知り合った彼は、何を思ったのかその女性に「台南娘?」と書いて見せたそうです。彼的には「台南のおじょうさん?」と聞いたつもりだったのでしょう。しかしその女性は非常にいやそうな微妙な顔をしたとか。

それを聞いた時私は教えてあげました。中国語で「娘」は「お母さん」という意味だと。「台南娘」はつまり「台南のおっかさん」という意味です。そりゃいやな顔もされるでしょう。ちなみに若い女性のことは「小姐」といいます。まだ「娘娘」と書いたらましだったかもしれません。「娘」だけなら「お母さん」という意味だけど「娘娘」となると皇后や道教の女神に与えられる称号だからです。

まあ、いずれにしても生兵法は大怪我のもとってことですね。