左営蓮池潭・龍虎塔を宗教的な部分でわりと細かく解説してみる

高雄の観光スポットといえば左営蓮池潭の龍虎塔が有名です。しかし、日本のブログとかで龍虎塔が紹介されているのを見ると「龍虎塔に入ってみましたー、中に壁画がありましたー、意味はわかりませーんあはははは」みたいなのが非常の多いので、もうちょっとまともな解説をしようと思います。まあ日本人は行って写真とればそれで満足だろうから、特に中身の意味については興味ないでしょうけど。

龍虎塔への行き方:台湾鉄道左営駅からまっすぐ歩く。

龍虎塔は宗教施設

龍虎塔は、龍虎塔の正面にある道教廟・城邑左營慈濟宮が建てた宗教施設です。故に慈濟宮のことを知らなければ中身の半分の意味はわかりません。

左營慈濟宮の創建は清朝統治時代の乾隆29年=1764年。その当時はもっと海寄りの場所に建っていました。日本時代になって、左営軍港を建てるためになんの補償もないまま退去させられています。補償がなかったというのは、この廟が、1959年になってやっと寄付金によって今の場所に再建されたということからもわかります。

台湾総督府は「寺廟整理」という名目で台湾の道教廟をいくつも立ち退きさせたり神像を破壊させたりするなどの宗教弾圧を行っていました。台北にも道路建設などで退去させられ、有志の寄付で別の場所に再建されたという廟はいくつもあります。

慈濟宮の主祭神は保生大帝。保生大帝は、宋代に実在したという医師・吳夲が神格化された神様です。吳夲には様々な伝説があり、その一つに宋の仁宗のご母堂が病気にかかったときに召し出され、その医術を疑った仁宗がまず椅子の足や猫に糸をゆわえて別室の吳夲に脈診をさせたところ、ことごとく言い当てたので、やっとご母堂の治療にあたらせたというものがあります。これは日本で丸パクリされ、「おえんさんの糸脈」というホラ話がでっち上げられました。

左右に配祀される朱府千歲、曹府千歲については説明すると長くなるので、疫病神を討つ役割をもった神様であるとだけ言っておきます。朱府千歲は台北では唐代の武将ということになっていますが、この廟では朱姓を賜った鄭成功であるということになっています。

天帝に祈りを捧げる天公炉のちょうど正面に龍虎塔が見えます。この位置関係を見れば慈濟宮にお参りせずに龍虎塔だけ見に行くことに意味がないことがわかるでしょう。

慈濟宮から道路を渡ると龍虎塔です。

龍虎塔入り口から龍の口まで

蓮池潭の岸と龍虎塔は九曲橋で結ばれています。

上から見るとこう。9回曲がっていないのに九曲橋なのは、9が陽数の最大数だからです。このようにジグザグなのは、まっすぐにしか進めない魔物を防ぐためです。沖縄でもよく見られる石敢當は、本来道の角の突き当りに置き、まっすぐ進んできた魔物を粉砕するためのものでした。

九曲橋の入り口には瑞獣・龍亀。別名贔屓。日本語の「ひいき」の元ネタとなった神獣です。龍亀は禹王が治水のおりに洛水から洛書を甲羅に描いて現れた神亀だとも考えられているようです。また、龍亀と栄帰(栄達して帰る=故郷に錦を飾る)と音が近いということでダジャレ的に招財のご利益があるということにされ、頭をなでられています。

橋からは啓明堂春秋閣や北極亭の玄天上帝などが望めます。

龍虎塔は「入龍喉、出虎口」がルールです。これもまた日本の多くのブログではそうすると幸せになるとか適当なこと言われていますが、ちゃんと説明すると、まず龍の口から入るのは「登龍門」の伝説から来ています。黄河の鯉は瀧をさかのぼり、龍門を超えると龍になるという言い伝えより、栄達を得られるという吉祥の意味があります。また、虎口から出るのは「虎口を逃れる」つまり災厄から逃れるという厄払いの意味を持ちます。これは別に龍虎塔だけのルールではなく、全ての道教廟のルールです。

龍の中は十殿閻羅と二十四孝子

龍の腹の中の壁には、右側に十殿閻羅、左側に二十四孝子の立体壁画があります。十殿閻羅は地獄の十人の閻羅王が管轄する裁判所です。

まず第一殿は秦廣王。ここでは善人かそれ以外かが審判され、善人はここから天国へ送られて、罪人はこれ以降の裁判所へ連行されます。

第二殿は楚江王。偽りにより拐かしをしたもの、他人を(物理的に)傷つけたもの、人を殺したものが罰を受けます。

第三殿は宋帝王。裏切り者やそれをそそのかしたものが罰を受けます。

第四殿は五官王。脱税をしたものや、交易で詐欺を働いたものが罰を受けます。

第五殿は閻羅天子。日本で言う閻魔大王です。もともとはインド神話の神・マヤが仏教に取り入れられ、それが中国や日本に伝わりました。閻羅天子はもともとは第一殿管轄だったけれど、優しすぎて罪人を許して天国に送ってしまうので第五殿に配置換えになったという話もあります。因果を信じず、良い人の行いを邪魔したり誹謗したものが罰を受けます。

第六殿は卞城王。天につばして神仏をうやまわなかったものが罰を受けます。

第七殿は泰山王。泰山王は泰山の神で地獄の王・東嶽大帝でもあります。そこらへんの矛盾はアバター的ななにかだと思われます。死骸を薬の材料にしたもの、親子を引き裂いたもの、是非を弄んだものが罪をうけます。東嶽大帝は『封神演義』では武成王黄飛虎が封神された神ということになっています。実際には泰山の土着神だったのであまり関係ありません。

第八殿は都市王。親不孝者が罰を受けます。

第九殿は平等王。放火殺人、強姦、ヤク中などが罰を受けます。

最後に第十殿轉輪王。これまでの地獄で罰を受けた魂の転生先を、罪の軽重によって定めます。

私は子供のころ悪いことをしたり嘘をつくと地獄に落ちると脅されて育ちました。国立博物館に連れられていき、地獄絵図を見せられたときは心底震え上がったものです。ときにはそういうトラウマを子供に植え付けることが、悪さを踏みとどませたりもするはず。この十殿閻羅図にはそういう教育的な意図もあります。

地獄を抜けた後には、仏教経由で民間で信仰されるようになり、その後道教に取り入れられて、地獄に落ちた魂を救ってくれるという職能を付与された地蔵王菩薩がおられるので、心当たりがある人はお祈りします。

反対側の二十四孝子は戻って撮影するのがめんどくさかったので画像はありません。かいつまんで話すと儒教的な孝行者を集めたものです。例えば、孟宗竹の元ネタになった呉の孟宗が真冬に筍を食べたいとわがままを言いだした母のために祈ると筍が生えてきたとか、父親と一緒に山に行ったら虎が出てきたので、自分だけ食べてほしいと願ったら虎が逃げていったという楊香の話とか、袁術に会いに行ったらおいしいみかんをくれたので、そっと袖に忍ばせて持って帰ろうとしたハイジ陸績の話とかそういうのです。

龍の塔内部

龍のしっぽの先は塔ののぼり口になっています。この塔の壁面には「三十六官将」の絵がえがかれています。三十六官将は本来北方守護の四神・玄武を人格神とした玄天上帝に仕える将軍たちでした。しかしある時玄天上帝が亀とヘビの魔物を討つために、保生大帝が天帝より賜った宝剣を借りに来て、その担保として三十六官将をあずけていきました。それで保生大帝が祀られる廟には、三十六官将も祀られています。亀とヘビというのは、玄天上帝の元ネタの玄武を構成する要素です。玄天上帝の像では、亀とヘビを踏んづけています。

しかし、玄天上帝の廟に行くと、これまた三十六官将が祀られているので、宝剣を返したのか借りパクしているのかよくわかりません。そういう事情を知らないとこの壁画の意味はわからないでしょう。

高元帥は始元太乙の精で、人間の胎内に宿って生まれたものの炎をまとっていたために親に川に投げ捨てられたところ、薬師如来に助けられて弟子となり、医術で広く病気を治したことを天帝に称され高元帥に封じられました。

辛元帥は雷神の一人。烏天狗のような姿に描かれることもあります。

右は『封神演義』ではなぜか悪役だったけど実際には財神として信仰される趙公明。

左は説明するまでもない李哪吒です。哪吒は人気者なのでどこにでもいる感じですね。台北の廟に行くと関係ないのに哪吒の神像が祀られているのは珍しいことではありません。

康元帥は仁慈の人として知られ、天帝より仁聖元帥に封じられています。

楊元帥は顕聖二郎真君。犬は二郎真君の使い魔・哮天犬と思われますが、いささかでかいようです。

岳元帥は岳飛です。悲劇の将軍岳飛は死後岳武穆王という神様とされています。

鄧元帥は雷神の一人で、雷神の頂点である九天応元雷声普化天尊麾下の雷部五元帥のリーダーです。

殷元帥は殷の紂王の王子・殷郊。ただし実在の人物ではありません。六十太歲星君のリーダーです。

王元帥はこれも『封神演義』では悪役だった豁落靈官王天君です。

36柱全部は紹介できないのでこれぐらいにしときます。

塔から慈濟宮が見えます。

龍塔から降りると隣は虎塔になっていますが、6層の龍塔を登り降りした時点で疲れたので虎塔のほうは登ってません。

虎の中は儒教聖人と三十六官将

虎のお尻から虎の中に入るとまず孔丘が祀られています。

そして、左側の壁には儒者や儒教の聖人、右側の壁には三十六官将の立体壁画が飾られています。

めぼしいところを見繕っていくと、顔回は常識的に説明不要として、許由は儒者ではなく、堯に帝位を譲ると言われたときに汚らわしいことを聞いたと川で耳を洗ったという聖人で、皇甫謐の『高士伝』に登場し『荘子』にも隠士の例として引かれる人物です。儒教でどういう扱いなのかは知りません。

冉求、冉耕は孔門十哲に入れられる孔丘の弟子。

曽参、公冶長、南宮括も孔丘の弟子。南宮括は『封神演義』の南宮适のモデルとなった南宮括とは別人です。

公孫龍は白い馬は馬じゃないというアホ理論の公孫龍ではなく、孔子の53歳年下の弟子として知られるほうの公孫龍でしょうね。

伯皮は孔丘の腹違いのお兄ちゃん・孔皮。二人は魯国の大夫の息子でしたが、兄は先天的に足に障害があったために孔丘に跡継ぎを譲り、自分は庶民になりました。

とにかくまあそんな感じで主に孔丘の弟子たちがずらっとならんでいます。

道教は儒仏道三教合一を標榜しているので、儒教思想も入っています。ただ、これほど孔丘とその弟子たちをクローズアップしているのは教育的意味合いが強いと思います。

反対側は三十六官将が並びます。このへんは上で紹介したので飛ばします。

五靈官は華光大帝のこと。母を救うために地獄に飛び込み、天帝より六天火府兵馬大元帥に封じられて火神となりました。

馬龍官は由来はよくわかりません。馬龍ってことは龍王の息子の馬になるやつかもしれないですね。

紀仙姑、勤仙姑は、黄帝に兵書を授けた九天玄女に仕えるとも言われる仙女。

劉聖者は劉志達という唐代の実在した僧侶。なんでか福建道教の閭山派で神様とされ、それがまた三十六官将の中に組み入れられました。

蕭聖者は宋代の道士で、こちらも輔天真君という閭山派の神様です。

連聖者は唐代の閭山派道士。

これも全部やると大変なのでこのへんにしときます。

さてこれで虎口から出て厄が祓われました。

龍虎塔までの行き方

最後まで読んだあなたは多分1000人に1人ぐらいの割合の人です。お疲れ様でした。

ここまで読んだ人のためにもうちょっと詳しい行き方です。

台湾鉄道左営駅には、高速鉄道・高雄MRTの左営駅から、在来線の台湾鉄道に乗り換え、高雄方面行きで次の駅となります。在来線の左営駅からは北西側の出口に出て、その前に伸びる「勝利路」をまっすぐ歩くと、10分から15分ほどで龍虎塔が見えてくるでしょう。体力に自信があるなら、高速鉄道の左営駅から歩いて行くことも可能です。また、高速鉄道左営駅の北側バス停から出ている301A、301Bなどのバスでも行くことができます。