台湾で使われている諸言語

日本は単一言語国家で、そのせいか言語というのは一つの国に一つだと思いこんでいるような人が意外と多いです。以前NHKの番組で笑福亭鶴瓶がブラジル人が多く住む地域を探訪し「ブラジル語が聞こえてきた」などと言い出したのは噴飯ものでした。言うまでもなくブラジルの公用語はポルトガル語です。

「台湾が好き」などと言いながら、台湾人が話す中国語と台湾語の区別がついていない人もかなりいるように思います。その国が好きだと言うのならば、せめてその国でどんな言葉が使われているのか知っているべきではないかと思うのですが。

台湾の公用語=中国語

台湾の公用語はいわゆる中国語=マンダリンです。これは第二次世界大戦後、国共内戦に敗北した国民党が台湾に敗走し、占領統治したことにより強制されたものですが、40年以上にわたる蒋家独裁政権下での「中国化」教育と並行して台湾人に対して押し付けられたことですでに共通語として定着しています。

ただ、多民族多言語国家である台湾において、マンダリンが各民族の意思を疎通させる上で役立っているのもまた確かなことです。台湾では中国語のことを「国語」と呼んでいます。ただし、国民党に押し付けられた言語を「国語」と呼ぶことに違和感を持つ人は「中文」と呼ぶこともあります。

マンダリンとは言いながらも、台湾の中国語は中国の共通語である普通話とは様々な部分が違います。まずそり舌音、アル化音がほとんどないという点。そり舌音は漢語ピンインにおけるshi、chi、zhe等々を発音するために舌を反らせて行う発音のことで、アル化音は語尾にアルがつく発音のことです。ただこれは中国でも地方によっては見られる現象で、台湾特有のものではありません。

台湾の中国語には、台湾語=福州語が元になった言語の影響が見られます。例えばありがとうを意味する「謝謝」に対する「どういたしまして」は、中国の普通話では「不客気」「不用謝」ですが、台湾ではほとんどの場合「不會」が使われます。これは台湾語の影響です(ただし若い台湾人に「不客気」と返されたこともあります)。

他に日本語の影響を受けている場合もあります。例えば「料理」はここ十数年の間に中国でも日本語の「料理」の意味でも使われるようになってきているとはいえ、本来中国語の「料理」は処理するとか整理するといった意味です。しかし、台湾では「料理」はそのまま日本語と同じ「料理」の意味で使われてきました。

また、日本語の「弁当」は中国語では「盒飯」であるのに対し、台湾では「便當」といいます。これは日本時代に普通に「辨當」だったものが、国民党占領時に日本語の単語が使用禁止になったために、辨の字を発音が同じ便に変えたものだとも言われてますが、本当にそうなのかどうかは未確認です。

このような、中国とも、またシンガポールなど中国人移民が多い国などで使われている中国語とも違う台湾独特の中国語は、最近では「台湾華語」とも呼ばれています。

台湾で最も多く使われているのは台湾語

一方、「ホーロー系」と呼ばれる台湾の民族の8割以上を占める人々が話す言葉は台湾語(台語)と呼ばれています。これは台湾への中国からの移民の多数を占める福建の泉州及び漳州出身者が話すホーロー語もしくは閩南語が元になり、そこに日本統治時代には日本語由来の単語、国民党統治以後には中国語の単語が加わってできた言葉です。地域によっては原住民の言語からの影響を受けてもいるようです。

日本語由来の単語としては、おじさん、おばさん、運ちゃん、食パンなどがあります。以前見た台湾の番組で、ウイグル人を台湾人が案内するというものがあり、そこで台湾人が「台湾の言葉を教えてあげるよ」と言って「おじいさん、おばあさん」と言い出しがことがあります。これは別に騙して日本語の単語を教えたということではなく、台湾語の中に外来語としておじいさん、おばあさんが入っているということなのです。

夜市の屋台で、中学生に「おじさん」と呼びかけられた30代ぐらいの店主が「おじさん!?」と聞き返したら中学生が「おにいさん」と言い直した場面を見たこともあります。

台湾語と台湾華語はまったく発音が違い、文法も異なる部分があります。ただ、台湾語は書き言葉としては未発達であるため、現在台湾では文章は台湾華語で記されます。台湾人による台湾華語の文章を「台湾語」だと思っている人は、よほど台湾に興味がないのでしょう。

公用語としての中国語、民間の多数派としての台湾語以外に、台湾には客家語と原住民それぞれの言語があります。